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「隠れ谷」
ここの地形は、大きくは東に濃尾平野 、西に奈良盆地を抱え、小さくは東の 伊賀、西の大和を繋げる伊勢街道 阿保山(あおやま)越えの街道筋であ り、狭い谷が細長く東西に伸び、奈良 県に多い型として、南北に本道がない。 幼少の頃より始まって東西は探検 しつくしたから、思い切って南にハン ドルをむけた。
左に右にと室生ダムを崖下に眺めながら、いい気分で林道に分け入っていると、急にあたりが暗くなった。樹影は次第に濃くなり、森が高くなる。アスファルトにはスギの枯れ枝がおびただしく、そこここに出現する断崖からは、岩清水の声まで聞こえてくるようで、車の中にまでなにやらひやりとした空気が流れてきた。 奈良の山は、おしなべてこういう場所が多い。室生、曽爾、御杖 などは一歩山中に分け入ると、ここが上代から人の暮らしていた場所かと猜疑するほど、めっぽう山深い。しかも、だだただ山深いだけではない。なにやら得体の知れない生き物が常にこちらを見張っているような、緊張感が付いて回る。鎌倉育ちや贅六育ちの人間(もしかしたら屋久島育ちも)だけにしか、この感覚は分かりにくいのではないだろうか。
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