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「隠れ谷」
小川にそった樵の集落か、養蚕の村 とでも言うべきか、ともかくも、遠目に 見たその村落は、当初、普通のそれと 大差ないように錯覚した。  似たような物を、信州中山道筋の宿場 でも山形の露天掘りの村でもいくらでも 見かけたような気がしていた。
ただ、畑が、その実り具合まで分かるほど近くなると、村が一変した。 絶壁には家屋が辛うじて建てられていて、進むたびに傘骨のような 廃屋があらわれた。 段々畑などは、その言葉から想像しうる景観とは多いに 懸隔している。段の落差は3メートルをゆうに超えていて、 よくも崩落しない物だと感心せざるを得ない。加えて畑一枚 の幅は1.5メートル程で、まことに小さい。 行き交う車はもちろん、人もいない。天狗に会う小説 でもあれば、その序章は、ちょうどこの様なものなの ではないかと夢想したりした。 少々、気味が悪い。アンコールワットを発見した人間(名前をしらべろ。そしてここに入れろ)の驚きと恐怖に、私のそれは似ている。
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